国語と道徳の勉強に!視野を広げる本「考える力が育つ20の物語」

童話探偵って何だろう?探偵物なら子どもが好きそうだし、童話を違った角度から読めるという事に興味を惹かれ、この本を購入してみました。

反抗期まっさかりの小5の娘。自己主張もはっきりしてきて、親の正論もうるさく感じる年齢です。この本はそんな年頃の子どもにはぴったりで、固まった心も解きほぐしてくれそうな気がしました。

10歳からの 考える力が育つ20の物語 童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方

アスコム発行の『10歳からの考える力が育つ20の物語童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方』は、石原健次さんの著書で、336ページあります。定価は1,430円です。

本としてのボリュームは結構ありますが、1話ごとに内容は完結していますので、読みやすいと思います。

有名な童話や昔話、全20話について書かれていますが、忘れてしまったお話や、知らないお話でも、全文が載っていますので問題ありません。

童話探偵とは?

子どもの頃、童話や昔話を読んでもらった方も多いと思います。それと同時に教訓も伝えられた記憶はないでしょうか。「だから嘘をついてはいけないんだね」「だから頑張らないといけないね」。私自身も親に言われ、それを子どもにも言いきかせてきました。

そんな教訓を打ち破ってしまうのが、この物語の主人公、童話探偵ブルースです。「童話探偵」とは、名作童話を読み解き、現代に活かす新しい解釈を見つけていく。そんな斬新な探偵です。助手はリスの女の子、シナモン。肉まんそっくりな乗り物、ミートバンは、童話の少し後の世界へ飛んでいけるので、ブルースの読み解きに役立ってくれます。

1話ごとの構成は「ブルースへの依頼」「童話や昔話の紹介」「ブルースの読み解き」「助手シナモンの日記」となっています。そして20話が終わる頃には、ブルース自身の秘密も解き明かされる事になります。娘も、最初の数ページを読んだだけで、すぐに興味を持った様子でした。

カメは偶然勝っただけ

たくさんのお話がありますが、娘が気に入っていたのは「ウサギとカメ」の読み解きです。「カメは偶然勝っただけ。勝ったのは奇跡」これはブルースの台詞ですが、かなり驚いたらしく「カメって偶然勝っただけだったの!?」と興味津々で、ブルースの辛口とも思える台詞に笑っていました。

あまりにも有名なお話「ウサギとカメ」ですが、童話探偵ブルースは、世間の常識とは切り口を変えて解釈していきます。そもそも一般的にはどのようなお話だと思われているのでしょうか。「怠け者のウサギ、努力家のカメ」「コツコツ頑張れば、足の速いウサギにもカメは勝てる」等の見方が多いと思います。ですがブルースは「そもそも、この2匹のかけっこには無理がある」「ウサギが寝たというラッキーがおこっただけ」と、助手のシナモンも驚くような事を言います。

それならカメはどうすれば良かったのか?ここからがこの本の醍醐味であり、「考える力が育つ」という大事な箇所だろうと思われます。

娘は「勝てないって分かるなら勝負しない」という意見でした。カメって実は浅はかだったのだろうか?冷静になっていたらどういう結果だったのだろうかと、考えさせられる内容でした。

王様ですら空気を読んでいた

「裸の王様」の解釈も興味深かったです。みんな馬鹿だとは思われたくなかった。そんな虚栄心があっただけではなく、全員が空気を読んだのだという解釈です。

娘とも話しましたが、「王様は裸だ」と言えるでしょうか。娘の意見は「言えない」でした。私も同じですが、かなり勇気がいるだろうと思います。

空気を読む事は大切だけど、これからの人生を決めるような選択など、大事な場面では意志を貫き通してほしいと、この本では語られています。

道徳的な事や、生きていく上でのヒントも、それぞれのお話の中ではいっぱい書かれています。ブルースや他の登場人物たちにホロリとさせられるような場面もあり、勉強になるだけでなく、物語としても大変面白くつくられていました。

正義の反対は、もう一つの正義

正義の反対は相手にとっては正義なのだと、この本では繰り返し説いています。作者の石原健次さんは放送作家の方ですが、極楽とんぼの加藤浩次さんのこの言葉に感銘をうけ、この本を出そうと考えられたそうです。

数々の童話や昔話がありますが、本当に悪者の言動は悪だったのか、そこまでこらしめる必要があったのか。後味の悪い終わり方をしているお話は意外とたくさんあるように思いますが、そんなモヤモヤを、ブルースは払拭してくれる気がします。

人それぞれの読み解き方

主人も帰ってきて、家族でこの本の話題になりました。

アリとキリギリスのキリギリスは、音楽を奏でてそれで商売して冬を越す資金を貯めればよかったのではないか。

雪女が怖い。みのきちの父親を殺している雪女に、みのきちを責める権利があるのか。みのきちは奥さんと居ても安心してはいけなかったのか。疲れそう。等々、作者と同じ意見や違った意見、単なる童話への感想までも飛び出して、かなり盛り上がりました。

もちろん昔ながらの童話の解釈が間違っている訳でもありませんし、小さな子への読み聞かせに有効な場合も多いと思います。それでも童話探偵ブルースの読み解きは、偏った考えをかなり柔軟にしてくれます。まさに「考える力が育つ本」だと感じました。